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  • Jun Miyake

AIは未来に何を贈るか

最終更新: 2020年12月5日

<産業革命がもたらした近代は終わりつつある>


 AI技術を考えるとき、人間の暮らしにどのような影響があるか、思いを深くせざる得ない。しかし、この予測は簡単ではない。未来の産業も科学も異なった基盤の上に立っているからだ。私達の将来は過去の延長ではない。

 最近10年余の問題を見ても、コロナ禍だけでなく、高齢少子化、地球温暖化、大量の難民、医療や社会保障など、いわゆる近代社会が進めてきた社会のあり方が大きく揺らいでいる。それぞれの問題は独立しているのではなく、近代の体制が本質的に有していたシステムの問題が露呈してきたのであろう。近代は産業革命によって定式化された「モノを作る経済」に支えられてきたので、世界レベルでモノ作り産業と経済が変容すれば、部分的な改変では間に合わない事態となる。

 私達は、科学技術の進歩によって、未来は自動的に発展し与えられると信じてきた。しかし、産業革命から始まる科学技術は環境・国際関係・経済的限界によって型の終焉を迎え、近未来は別の型の文明・技術・経済によって支配される可能性を受け入れざる得ない。我々の未来がモノ作りを脱するというと、経済的な価値は何にリンクするのか、信じ難い感がある。しかし、貨幣はすでにモノ(金)から脱している。経済活動でも、投資は企業の活動への直接的な支援だけでなく、異なった役割を担う可能性が高い。

 すでに日本でも経済は製造業からサービス産業・所得収支へ移行しつつあり、工業が今後も産業の中心とは言いにくい状態だ。近未来である2050年までには、産業経済の構造変化はますます加速しよう。我々の経済や活動、人生はどのように変わるのか、変化をもたらしているものの根源的な理解が必要である。



<次の時代は情報とAIの時代か>


 モノの生産を続けることに限界があることは明らかであろう。一方価値をモノから情報に転じた経済活動が始まっており、今後重要な位置を占めると考えられる。ソフトウエアの生産は始まりに過ぎず、人間の活動の全てに亘って情報技術が関わり、統合され、より大きなまとまりとしてシステム化されて行く。システムの中で情報を扱い判断をするのは人工知能である。かかる産業・経済の大きな流れはすでに実体化しつつある。

 個人の生活の立場で考えてみよう。次の時代における「価値」は、我々の定式的な労働の産物ではなく、モノであれ情報であれ「創造されたもの」となると考えられる。モノの時代においては、鍋釜家電などでもモノの価値が生活の隅々まで影響を与えたが、次の時代ではファッションデザインなど、生活や生き方に影響を与える思想、生活の方法や自然との調和などが重要になる。モノそのものから離れて、人の考え方、心理、行動様式に影響を与える知的生産品(高い知価を持つもの)が満ち溢れてくる。AIがデザインも生産も手助けすることができるから、変化の速度は早くなる。いずれ普遍的かつ波及力の大きい知価が現れて広く定着するだろう。それが時代特有ものとなり、経済と人間の行動の規範となるシステムが生まれると考えられる。

 総じて、次の時代は、モノから離れ、人間の心理レベルの価値が主流になる。堺屋太一が「知価革命」で述べたように、モノ・物理量・計測で表される定量性の時代が終わると、心の充実が尺度となる時代となる。宗教的あるいはルネサンス・産業革命以前への回帰がおこる様にも見える。

 ところが、すでに始まっている産業技術だけでなく、次の時代においては、アート=心理に働きかける方法即ち、映像、音、文章などが重要になるが、すべてデジタルであることがこれまでと異なる。デジタルならば、AIが活躍できる。人の思考に深く関わることができる。AIは人工知能と言う通り、人間の知的能力の一部を共有することができる。かつて人間が肉体的な力の代替として機械装置を発明して用いたが、今度は知能の代替が進むことになった。変化は、社会の基幹産業から個人の生活に至るまで、切れ目なく広がり、時代は明らかに質的に代わっていくと考えられる。

 勿論問題もある、いくらAI全盛となろうとも、誰でもAIが使いこなせるわけではない。創造的な活動を担う知的なヒトは優位に立つ。物作り経済の時代の平等性は失われるが、次の時代の平等とはどのようなものであるのか、まだ見えないというところであろう。

<時代の変化が医療へ与える影響は大きい>


 日本だけではないが、産業経済全体が新時代に適合しようとして変貌しつつある。我々はコロナウイルス禍によって、変化の必要なことを痛切に思い知らされた。石油や鉄ではなく、情報技術が基幹となる経済・国際関係、各国の相関を十分理解した上で、現状の単なる敷衍ではない医療・社会福祉のあり方を考えることは必須であろう。

 現在の保健や社会保障の構造は19世紀の半ばに、物作り産業の発展と人口増大が続く前提で作られた。少子高齢化によって人口も減り社会構造も変化していく中で、今後はこれまでの医療・社会保健の体制を維持できないのは自明である。政府の役割も変わり、経済構造も様変わりしたときに、誰が経済的に支えるのか、果たして国家は大きな政府を続けることが可能なのか。

 保健や医療は変化するものの代表である。これが無限に続くサービスではないことを、近未来の人間がいかにして納得するか。AIなどの新技術は難病を治癒可能な普通の疾患に変えることができるか、その範囲はいかがか。健康は商品として流通するか、サービス産業の基幹になりうるだろうか。未だ結論の出ていない問題である。我々は賢明な選択をしなければならない。

 次世代の社会では、全ての国民が、自分の自由な時間を最大限に使お うとする、言い換えると、時間を操り、自らの欲するところを実行できる人生を過ごすことが幸福の一つであり、より多くの国民が充実した人 生を全うできる社会へと変貌していることが命題である。その最大の要因として、健康長寿を延伸する医療技術を確立することが挙げられる。 さらに、無駄な時間を最小化し、かつ、社会経済活動を維持・効率化する技術を獲得すること、そして、本来人間が持っている人間性を高める ことが求められる。健康医療が幸福の基礎であり、未来社会の重要部分を担うことになる故、健康を維持するシステム自体を経済的にも重要な 産業に育てることが必要となる。

医療システム・医療技術の革新が必要と考える。産業技術や国際関係の変化 は生活の質と経済に影響し、日本の未来を大きく揺さぶる。AIはそれら変化を最小にし、人間本来の生活や健康などを保持するための重要技術となるであろう。

 問題の直接的な表れは「人口減少」とそれに伴う「疎遠化」である。すでにド ラスティックに進行しつつある。コロナ禍によって始まったかに見え る「疎遠化」は本質かつ不可逆のトレンドとなると予想される。  行政的な問題は本稿の範囲を超えるので他に譲りたいが、AIの本質や想定される役割について、以下に議論を進めたいと考える。


<AIは医療技術の最大のツールとなるだろう>


 AI時代において最も顕著な変化が想定されるのは医療である。レントゲンによる可視化、ジェンナー以来の免疫の応用、抗生物質が拓いた微生物との戦いの如く、医学の体系の中に大きな位置を占めるものとなるだろう。本節では科学の方法(哲学)のレベルで簡単にまとめる。

 なにゆえ医学との結びつきが大きくなるか、画像判定のニーズに応えられるだけではない。医療は科学だけの世界ではない。哲学的な世界でもある。人間・生命の存在様式は「複雑系」である。それを扱う医療も複雑系であるべきだが、これまで科学の領域とされてきたことに、今後の発展の限界につながるものがあるだろう。医療が、複雑系の処理が得意なAIを利用して発展し、薬の開発から治療までを新たな体系に移行させることができれば、新しい医療が出現しよう。

 高度な情報社会の中で医療の意味合いが新しいものとなる。例えば、あらゆるイメージングが可能な、統合化された超精密計測技術と、分子機構から疾患の様態の解析、そして患者の心理までも推し量るAI技術などが技術の基幹を成すようになろう。その体系が、近未来の産業社会にも大きな影響を与えると考えられる。

  2020年のコロナ問題は、 AI を用いた遠隔医療が不可避の課題であることを示した。遠隔医療は、直接の診察に及ばないところがある。しかし、それまで医療を受けられな かった人に医療を届けることになり、トータルで健康向上が期待できる。勿論、AI によってレント ゲンや CT 機器の飛躍的高度化が実現するだろう。そして、健康保険・診療システムの変容も必至であろう。細分化に基づく現状の医療技術をそのまま深めていては経済的にも破綻は免れないであろう。医療装置を例に取れば、cm 単位の解析から、ミクロン単位への変化が 起こる。この能力を如何に活かすかが焦点である。さらに、ゲノムなどの特性記述・疾患の分類技術に、大きな変化が生じると考えなければ ならない。人工知能が、医師の認識の一定部分までを置き換えることができるだろう。 想定する医療の発展は、産業の一分野に限定されるものではない。2050 年には、社会の価値軸 が、健康に置かれるであろうと予想している。科学技術の数的な側面だけでなく、人間としての幸 福にどのように資するかに注目する。その軸に沿って、どのような技術が出現するかについて、総合的に検討するものである。




概念:工業社会とポスト産業革命の印象


工業社会の特性

・ものを正確に作る

・ものを写実的に見る(Physica)

・本質は外部要素に依存し1:1対応で繋がる

・価値は外部要素で安定的に保たれる(資源)

・絶対基準が存在する(一神教的)


移行しつつある次の社会の特性

・モノが価値ではない

・本質を概念的に表現する(Metaphysica)

・対象物ではなく思惟から発する表現

・思惟にかかわる外部との相関は要素として安定ではない

 (1:1の対応は保証されない)

・価値はものに依存せず、変動する。相対基準







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医学の知的産業としての位置づけ

現代は産業革命時代の終焉とパラダイムシフトの時である。20世紀の工業生産を支えていた地下資源の利用による地球環境問題によってエネルギー消費に上限が設定されるからである。単に炭酸ガスの増加だけでなく、地上での熱発生そのものも規制対象になろう。即ち、資源の種類を問わずエネルギー・資源消費型の工業は発展しにくくなる。この状況で経済活動の効率化を進めるために考えられているのが、いわゆる知的産業である。これ