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  • 執筆者の写真Jun Miyake

医学の知的産業としての位置づけ

 現代は産業革命時代の終焉とパラダイムシフトの時である。20世紀の工業生産を支えていた地下資源の利用による地球環境問題によってエネルギー消費に上限が設定されるからである。単に炭酸ガスの増加だけでなく、地上での熱発生そのものも規制対象になろう。即ち、資源の種類を問わずエネルギー・資源消費型の工業は発展しにくくなる。この状況で経済活動の効率化を進めるために考えられているのが、いわゆる知的産業である。これまで「知価」は物財に付加される価値に過ぎなかった。あるいは生産力の余剰部分の価値を高めることが役割であったが、それだけでは産業の主役にはなり得ない。しかし、知的活動が産業活動を掘り起こし活性化すものならば、今後は重大な役割を担うこととなる。

 医療に関わる産業は直接的な生産活動ではなく、極めて高度かつ大量の情報に依存していることから多くくりには知的産業と考えるべきであろう。再生医療は医療用デバイスを生産するのでもの作り産業と見られがちであるが、もの部分は小さく、そこに投入される知識が重要であることからより知的産業的であろう。知的産業の定義は未完成であるが、1.知識そのものを形成し、販売する活動、2.他の産業を活性化する活動、3.新規な産業分野を創製する戦略的・情報活動、などに分かれるであろう。医療から発生する産業は2.と3.に関係を有する可能性が考えられる。

 知的産業として将来、再生医療をはじめとする先進医療が産業・経済活動の中で果たすべき役割は大きく分けて3通りあると考えられる。

1. 健常者の割合を高めること。病気を根治することにより、労働力の質的量的な改良が実現されることで経済へ貢献する。

2. 先端医学関連の産業と研究開発を活発化することで、他の産業を誘発すると共に、新たな知的価値を創出し、資金の流入と早い回転を可能にする。

3. 医療システムの充実、高度化が社会(国家、地域)の価値として国際的な比較優位を形成する。


 特に第二の観点が重要であることを強調したい。医療費削減は現実的ではなく、他の産業を活性化することが望ましい道であろう。医療にかかわる産業が増えること、そこに投入される資金が大きくなることがその内容である。課題を解決するには、医学関連の研究開発が医療の枠に止まらず、産業の基盤として広く大きな投資を呼び込むことが必要である。医療費は人件費の割合が高く、資金フローが固定化している。薬品の購入でさえ全体の15%程度でしかない。これでは医療全体として通常の産業のシステムに乗りにくい。金融を含めた産業経済と隔絶した体制である。また、それ故に研究開発の循環が小さいことが問題である。研究開発活性化のエンジンの循環が大きく早く廻ることが資金の回転を効率的にし、他の技術との連携による新たな価値の創出に繋がる。また、これまでの医療経済の枠の外で価値を形成できるようになることが求められる。たとえば基礎的な医療費として公的な保健システムを用い、個人の希望に応じて高度な医療を自費(個人保険)で行うことで経済規模の拡大に寄与することが有効と思量される。 

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